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【税理士が解説】7月10日目前!なぜ報酬から税金が引かれるの?源泉所得税のギモンを解消!
法人や、従業員に給与を支払っている個人事業主の皆様は、源泉所得税の徴収義務者となります。 現在、顧問税理士から「社長さん、上半期(1月から6月)に税理士や弁護士などの士業に報酬を支払った場合、源泉所得税の徴収状況を教えてください」といった連絡を受けていませんか?
もしそうであれば、それは源泉所得税の納期の特例に関する確認です。この特例を適用している事業所の皆さんは、1月から6月までに預かった源泉所得税を、7月10日までに国へ納付する義務があります。
そして、7月から12月までに預かった源泉所得税は、翌年1月20日が納期日となります。
納期遅れは延滞税などの対象となるので、十分に注意しましょう。
報酬支払い時、その「源泉所得税」はなぜ必要?納税義務者の皆さんへ
「税理士さんや弁護士さんへの報酬から、なぜ税金が差し引かれるんだろう?」 「講演料やプロスポーツ選手へのギャラ、あるいはホステスさんへの支払いなど、様々な報酬で源泉徴収が必要と聞くけれど、これは一体…?」 「渡された納付書に『報酬・料金等』の欄があって、その分、納付額が増えているけれど、これは一体…?」
これらの疑問は、「源泉所得税」という制度に関するものであり、報酬をお支払いになる皆さんが「預かって国に納める義務」を負っているからこそ生じるものです。
本コラムでは、源泉所得税の仕組みについて、皆さんに理解していただき、安心して業務に取り組んでいただけるよう、詳しくご説明します。
なぜ、報酬から源泉所得税を「差し引いて納める」必要があるのか
源泉徴収制度は、所得税の徴収方法の一つとして法律で定められています。
通常、所得税は、個人が1年間の所得を計算し、確定申告によって自ら税額を確定させて納めます。しかし、特定の種類の所得については、その報酬を支払う側である皆さんに、支払いの際に所得税の一部をあらかじめ差し引き、その税金を本人の代わりに国へ納めることが義務付けられています。この一連の行為が「源泉徴収」です。
皆さんが受け取る納付書に「報酬・料金等」の項目があるのは、この源泉徴収によって預かった税金を納めるための欄なのです。
源泉徴収の対象となる主な報酬・料金
源泉徴収の対象となる報酬・料金は多岐にわたりますが、皆さんの事業活動で特に関わりの深いものをいくつかご紹介します。
- 税理士、弁護士、司法書士などの士業への報酬
- 原稿料、講演料、デザイン料
- プロスポーツ選手、芸能人、外交員などへの報酬
- ホステス、バンケットホステスなどへの報酬
これらの報酬を支払う際には、源泉徴収が必要となるので、注意しましょう。
「前の先生の時は引かれていなかったのに…」それは「法人」だからです
中には、「以前お願いしていた税理士さん(あるいは弁護士さんなど)には、源泉所得税なんて引いていなかったのに、なぜ今の先生には引く必要があるの?」と疑問に感じる方もいるかもしれません。
その答えは、報酬を支払う相手が「個人」なのか「法人」なのか、という点にあります。
源泉所得税の徴収義務は、個人の士業に対して報酬を支払う場合に適用される規定です。これは、個人が所得を得た際に、その所得税を効率的に徴収するための制度だからです。
一方、**税理士法人、弁護士法人、司法書士法人といった「法人」に報酬を支払う場合、原則として源泉徴収の必要はありません。**法人に支払われる報酬は、その法人の売上となり、所得税ではなく法人税の対象となるためです。法人は、自身の法人税を自ら計算し、国へ納めます。
【具体例で比較してみましょう】
ケース1:個人の税理士A先生に報酬10万円を支払う場合
- 報酬額: 100,000円
- 源泉所得税(10.21%): 10,210円
- A先生に支払う金額: 89,790円
- 皆さんが国へ納める金額: 10,210円
- 皆さんの合計負担額:100,000円(A先生への支払額89,790円 + 国への納付額10,210円)
ケース2:税理士法人Bに報酬10万円を支払う場合
- 報酬額: 100,000円
- 源泉所得税: 0円(源泉徴収は不要)
- 税理士法人Bに支払う金額: 100,000円
- 皆さんの合計負担額:100,000円(B法人への支払額100,000円)
ご覧の通り、皆さんが最終的に負担する金額(合計の支出)は、**どちらのケースでも「10万円」で変わりません。**違いは、その10万円が「個人の先生に全額支払われる」のか、それとも「一部を皆さんが預かって国に納める」のか、という支払いのルートが異なるだけなのです。
(注:上記の具体例では、消費税の負担額については考慮していません。)
預かった税金、私を含め専門家が「得」になることはありません
「私たちが税金を代わりに納めることで、専門家の方は何か優遇されているのではないか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。
しかし、この源泉徴収制度は、**私を含め、税理士やその他の専門家にとって「得」になるものでは一切ありません。**むしろ、税金が前払いされる仕組みと理解していただくのが適切ですし、実際にそのように税額が計算されます。
税理士やその他の専門家、個人は、1年間の事業所得を確定申告する際に、皆さんが源泉徴収して納付してくださった金額を「すでに支払った税金」として、最終的に計算された所得税額から差し引きます。もし源泉徴収された金額が最終的な税額より多ければ還付され、少なければ追加で納付することになります。
つまり、皆さんが預かって納める源泉所得税は、専門家が将来納めるべき税金の一部を、皆さんが事前に「預かって国へ納めてくださる」という役割を担っているのです。これにより、専門家は確定申告の際に納税する金額の一部が既に納付されている状態となります。
個人事業主の方へ:給与の支払いがない場合はご安心ください
「うちは個人事業主で、従業員に給与を払っていないんだけど、それでも源泉徴収って必要なの?」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
ご安心ください。**給与の支払いがない個人事業主の方の場合、報酬に対する源泉所得税の徴収義務は原則として発生しません。**源泉徴収の義務があるのは、所得税法で定められた「源泉徴収義務者」に該当する事業者です。これは一般的に、給与を支払っている法人や個人事業主などが該当します。
つまり、従業員を雇用しておらず、給与の支払いがない個人事業主の方は、士業の報酬や講演料などを支払う場合でも、ご自身が源泉徴収を行う必要はない、ということです。
まとめ:源泉徴収制度へのご理解とご協力をお願いいたします
源泉所得税の仕組みは、事業者の皆さんにとって新たな手間と感じるかもしれません。しかし、皆さんには法律で定められた義務としてご協力いただいています。現在、税理士から報酬の支払い状況について確認が入っているのも、皆さんが適切に源泉徴収を行い、法律に則った納税手続きを進めるための重要なステップです。
- 皆さんには、特定の報酬を支払う際に源泉所得税を預かり、国へ納付する義務があります。
- 源泉徴収は、個人の専門家に対するものであり、法人の専門家への支払いには原則適用されません。
- 最終的に皆さんが負担する金額は、個人の専門家・法人の専門家どちらに支払う場合でも同額です。
- 源泉徴収は、私を含め専門家が将来納める所得税の「前払い」であり、彼らが「得」をする制度ではありません。
- 個人事業主の方で、従業員への給与の支払いがない場合は、報酬に対する源泉所得税の徴収義務も原則として生じません。