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【税理士解説】現金勘定はもう不要?キャッシュレス時代の「事業主借」「役員借入金」活用術|会計入力編3
「最近、現金使わないけど…」帳簿の”現金”、どうしてる?
クラウド会計とキャッシュレス決済の普及により、事業用の現金をほとんど、あるいは全く持たない経営者の方が増えています。
それに伴い、「事業で現金を使わないのだから、会計帳簿の『現金』勘定も無くしてしまって良いのでは?」というご質問をよくいただくようになりました。
この記事では、キャッシュレス時代の現金勘定の扱い方と、その前に知っておくべき経理の注意点について、分かりやすく解説します。
なぜ「現金勘定は不要」と言われるようになったのか?
かつて、会社の経理といえば「現金出納帳」が基本でした。しかし、今は事業用の支払いのほとんどを、銀行振込、クレジットカード、電子マネーなどで済ませることができます。
このように、事業用の現金を物理的に持たない「キャッシュレス経営」を徹底すれば、日々の現金の出し入れがなくなり、帳簿上の「現金」勘定を動かす必要がなくなるのです。これにより、現金管理の手間や紛失・盗難のリスクから解放されるという大きなメリットがあります。
【要注意】帳簿の現金残高がマイナスに?それは経理の危険信号
その一方で、月次決算や確定申告の際に帳簿をチェックすると、現金勘定の残高がマイナスになっているケースが散見されます。
しかし、少し考えてみてください。お財布の中身がマイナス5,000円になる、ということは現実には絶対にありえません。物理的に、現金はゼロになることはあっても、マイナスにはならないのです。
では、なぜ帳簿上だけでこんな奇妙なことが起こるのでしょうか。その原因のほとんどは、次に説明する経費の「立替払い」の処理を間違えていることにあります。帳簿の現金残高がマイナスになるのは、経理処理が誤っていることを示す危険信号なのです。
現金マイナスを防ぐ「立替払い」の正しい処理方法
キャッシュレス化を徹底していても、「急な出先での駐車場代」「取引先へのご祝儀」「切手代」など、やむを得ず経営者個人の財布から事業の経費を支払う場面は出てきます。
この「立替払い」の処理こそが、現金残高のマイナスを防ぎ、正しい帳簿を作成する上での最大のポイントです。
答えは「事業主借」または「役員借入金」の活用
個人の財布から事業の経費を立て替えた場合、個人事業主か法人かによって、使う勘定科目が異なります。
【個人事業主の場合】
「事業主借(じぎょうぬしかり)」という勘定科目を使って処理します。これは、「事業主が、事業に対してお金を貸した」ということを意味する、個人事業主専用の記録です。
【法人の場合】
社長などの役員が会社の経費を立て替えた場合は、「役員借入金」や「役員立替金」といった勘定科目で処理します。これは、「会社が、役員個人からお金を借りた」ということを意味する記録です。
【仕訳例】
個人の財布から、事業で使う切手代630円を支払った場合
▼間違った仕訳(現金がマイナスになる原因)
(借方) 通信費 630円 / (貸方) 現金 630円
→手元に事業用の現金がないのに、現金で支払ったことにしてしまうと、現金残高がマイナスになってしまう。
▼正しい仕訳
<個人事業主の場合>
(借方) 通信費 630円 / (貸方) 事業主借 630円
<法人の場合>
(借方) 通信費 630円 / (貸方) 役員借入金 630円
このように正しい処理をすれば、会社の帳簿上にある「現金」勘定の残高は一切動かずに、経費を正しく計上できます。立替えたお金は、後で会社の口座から社長個人に精算(返済)すればOKです。
※ちなみに、反対に「事業のお金を事業主(役員)がプライベートで使った」場合は、個人事業主なら「事業主貸」、法人なら「役員貸付金」で処理します。
では、本当に「現金勘定」と「現金出納帳」は不要?
立替払いの正しい処理方法が分かりました。ここで、最終的な結論です。
結論:「事業用現金を完全に持たない」とルール化できるなら不要
「事業専用の現金(レジや金庫のお金)を一切持たず、すべての経費はカード・振込・電子マネー、そして個人の立替(=事業主借や役員借入金で処理)で支払う」
このルールを社内で徹底できるのであれば、現金勘定も、日々の現金の動きを記録する現金出納帳も、理論上は不要になります。
注意点:現金勘定を残す場合の厳格な管理
もし、少しでも事業用の現金を扱うのであれば、現金勘定は必要です。その場合、帳簿上の現金残高と、手元にある実際の現金残高は、原則として毎日一致させなければなりません(現金実査)。
「1円でも合わないと原因究明に時間がかかる」という現金管理の煩わしさを考えれば、いっそ現金勘定をなくす方向でルール作りをする方が、はるかに効率的と言えるかもしれません。
まとめ:自社の実態に合わせて、最適な経理ルールを
現金勘定の要不要は、会社の業種や規模、経営スタイルによって異なります。重要なのは、自社の実態に合った経リールールを明確に定め、それを継続して運用していくことです。
「うちの会社の場合、どういうルールが最適だろう?」「現金残高がマイナスになっているが、直し方が分からない…」など、経理のルール作りでお困りの際は、ぜひ私たち税理士にご相談ください。お客様の状況に合わせた、スマートで効率的な経理体制の構築をサポートいたします。