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2025.07.1
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【税理士が解説】会計ソフトの「預り金」と源泉所得税納付額が一致する理由と留意点


近年、クラウド会計ソフトの普及により、ご自身で日々の取引を入力し、会計業務を自計化される方が増えています。また、税務申告だけを税理士に依頼する「スポット申告」を選ばれるケースも多くなりました。このような状況では、ご自身で会計ソフトの数字を理解し、適切に管理することがより一層重要になります。

今回は、会社の業務の中でも特に重要な項目の一つである源泉所得税の納付について、会計ソフトの数字と実際の納付額がなぜ一致するのか、そして注意すべき点についてお話しします。


源泉所得税と「預り金」の基本

個人事業主の方も法人の方も、従業員や外部の専門家へ報酬を支払う際に、源泉所得税を徴収し、国に納める義務があります。この源泉所得税は、一度会社が「預かって」から納付するため、会計ソフト上では預り金という勘定科目で処理されます。

多くの会計ソフトでは、この預り金の残高と、実際に納付する源泉所得税の金額が基本的に一致するようになっています。これは、会計ソフトが源泉徴収から納付までの流れを正確に記録しているからです。

freeeをご利用の方へ

freeeでは、給与計算や報酬の支払い時に「源泉所得税」という品目で自動的に預り金が計上されます。この「源泉所得税」品目の残高が、納付すべき源泉所得税額と一致するはずです。

マネーフォワード会計をご利用の方へ

マネーフォワード会計では、「預り金」という勘定科目の中に「源泉所得税」などの補助科目を設定することが一般的です。この「預り金/源泉所得税」の補助科目の残高が、実際に納付する源泉所得税額と一致することを確認してみてください。


源泉所得税の徴収タイミングと預り金残高

源泉所得税は、給与や報酬を支払う際に徴収することが法律で義務付けられています。つまり、実際に従業員や外部の専門家にお金を渡すときに、その金額から差し引いて預かることになります。

この「預り金」の残高は、原則として国に納付されるとゼロになります。しかし、給与の締め日と支払日の関係によっては、総勘定元帳や補助元帳で確認した際に、預り金残高が一時的に残ることがあります。

例えば、多くの企業で採用されている「月末締め・翌月10日払い」の場合を考えてみましょう。

  1. 1月分の給与(1月1日~1月31日勤務分)
    • この給与の支払日は2月10日です。
    • 源泉所得税は、この2月10日の支払い時に徴収されます。
    • 会計ソフトでは、通常、この2月10日付で預り金として計上されます。
    • そして、この2月10日に徴収された源泉所得税は、原則として3月10日までに国に納付されます。

このケースで、月の途中で預り金の残高を確認するとどうなるでしょうか?

  • 2月末時点:2月10日に徴収した1月分の源泉所得税が預り金として計上されていますが、まだ納付期限(3月10日)が来ていないため、1ヶ月分の預り金が残高として表示されます
  • 3月10日(納付後):2月に徴収した源泉所得税を納付すると、預り金が減少し、残高がゼロになります。

このように、給与の締め日と実際の支払日(=源泉所得税の徴収日)、そして納付日の関係によって、月の途中で預り金の残高を確認すると、納付前であれば1ヶ月分の残高が確認できることになります。納付が完了した時点では、その月の預り金はゼロになるのが正常な状態です。


なぜ一致しない場合があるの?

基本的に一致するはずの預り金と源泉所得税納付額ですが、稀に一致しないケースもあります。

  • 入力ミス: 給与計算や仕訳入力時に金額を誤って入力した。
  • 納付漏れや二重納付: 過去の納付が漏れていたり、誤って二重に納付してしまったりした。
  • 会計期間のズレ: 納付対象期間と会計ソフトの集計期間が一致していない。
    • 徴収タイミングと給与締め日のズレ:給与計算ソフトと会計ソフトを連携している場合に特に注意が必要です。源泉所得税の徴収は、実際に給与を支払う日に行われます。しかし、会計ソフトによっては、給与計算ソフトから連携されたデータを「給与の締め日」で仕訳計上する設定になっている場合があります。 例えば、1月末締めの給与を2月10日に支払う場合、源泉所得税の徴収は2月10日です。しかし、会計ソフトが1月末日付で「預り金」として計上してしまうと、1月分の預り金残高は発生するものの、実際の納付は2月に行われるため、1月末時点の預り金残高と2月の納付額が一時的にズレて見えます。 このように、給与の締め日と実際の支払日(=源泉所得税の徴収日)が異なることで、預り金が会計ソフト上で一月ずれて反映されることがあります。これは、実務上の処理と会計上の処理のタイミングが異なることで生じる一時的なズレであり、最終的には解消されます。年度末や月次決算の際には、このズレを考慮して残高を確認する必要があります。
  • 年末調整による繰越超過税額の発生:年末調整の結果、従業員に還付する所得税額が、その後に徴収する源泉所得税額を上回る場合があります。この場合、給与ソフトでは「繰越超過税額」として処理され、翌月以降の源泉所得税から差し引かれます。 会計ソフトでは、この「繰越超過税額」が発生すると、預り金の残高がマイナスとして表示されることがあります。これは、会社が「預かっている」源泉所得税よりも、還付しなければならない金額が大きくなった状態を意味します。このマイナス残高は、その後の給与から徴収する源泉所得税と相殺されて解消されていくため、繰越超過税額の金額と預り金のマイナス残高が一致していれば問題ありません。
  • 税理士などによる修正: 税理士が会計ソフトに直接修正を加えた。

もし一致しない場合は、上記のような原因が考えられます。まずは、給与明細や支払調書と会計ソフトの入力内容を照合し、どこでズレが生じているのかを確認することをお勧めします。


インストール型会計ソフトをご利用の方へ

今回の内容は、freeeやマネーフォワードのようなクラウド会計ソフトに限らず、弥生会計会計王などのインストール型会計ソフトをご利用の場合も同様に当てはまります。会計ソフトの種類に関わらず、預り金の残高と源泉所得税の納付額は適切に管理されるべき重要な項目です。


ズレが気になる、煩わしさを感じるなら当事務所へ

「会計ソフトの預り金残高と源泉所得税の納付額がどうも合わない…」 「給与計算と会計処理の連携が複雑でよく分からない…」 「年末調整後の預り金マイナスが合っているのか不安…」

もし、このようなご不安や、会計処理の煩雑さに手間を感じるようでしたら、ぜひ当事務所にご相談ください。税理士として、貴社の会計データを拝見し、現状の確認から適切な修正、そして今後の効率的な運用方法まで、丁寧にご支援させていただきます。

源泉所得税の納付は、企業のコンプライアンス上も非常に重要な事項です。会計ソフトを正しく活用し、円滑な税務処理を行いましょう。

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