COLUMN
コラム

2026.02.20
コラム

「ビール片手に確定申告」スマホ申告アプリは実際どこまでできるのか

YouTubeや電車の吊り広告でよく目にする確定申告アプリ。

「スマホで完結」
「まだ税理士に依頼しているの?」
「ビール片手に確定申告」

なかなか挑発的なコピーです。

そこまで言うなら、実際どこまでできるのか。

ということで、私自身も一つのアプリに登録し、実際に操作してみました。


触ってみた率直な感想

結論から言えば、よくできています。

・クレジットカードや銀行口座の自動連携
・領収書などをスマホで撮影したスナップ写真の読み取り
・科目の自動提案
・画面に沿って進める設計

入力作業の負担は確実に軽減されています。

Excelやスプレッドシートで一から集計するよりは、圧倒的に楽です。

最近のアプリは税理士監修をうたっているものも多く、制度の基本部分は整理されています。この点は正当に評価できます。

また、過度な節税をあおるような監修ではない点も安心材料だと感じました。


ただし、前提理解は必要

AIは優秀です。

しかし、得意なのは「パターンに当てはめる処理」です。

例えば、コンビニやAmazon。

これらは取扱商品が非常に幅広い店舗です。

文房具もあれば、食品もある。
消耗品もあれば、私用の買い物もある。

しかし明細上は「コンビニ」「Amazon」としか表示されません。

そのため、科目が自動で提案されても、実際の用途とは異なることが少なくありません。

コンビニ利用が常に消耗品とは限りませんし、Amazon購入が常に仕入や消耗品とは限りません。

汎用性の高い店舗ほど、科目判断は本来慎重であるべきです。


モバイルSuicaのケース

実際に操作していて気になったのが、モバイルSuicaの扱いです。

クレジットカード明細に「モバイルSuicaチャージ」が表示され、
同時にモバイルSuicaの利用明細も連携されます。

この場合、

カード側のチャージも旅費交通費、
Suica側の利用分も旅費交通費、

と自動提案されるケースがありました。

つまり、利用者が理解していないと、二重で旅費交通費が計上される可能性があります。

AIが自動で整理してくれる前提で進めてしまうと、誤りの原因になり得ます。


スワップ機能の便利さと限界

事業用・家事用を切り替えるスワイプ機能も便利です。

ワンタップで区分できる設計は直感的で分かりやすい。

イメージとしては、マッチングアプリで左右にスワイプして「いいね」「見送り」を選ぶ感覚に近いかもしれません。

事業用か、家事用か。
指先ひとつで切り替えられる。

この手軽さは確かに魅力です。

家事按分が必要な場合、割合指定ができるものもあります。

ただし注意したいのは、

同じレシート内に事業用と私用が混在している場合です。

レシート単位で読み取る仕組み上、
レシートの中身を自動で完全分割してくれるわけではありません。

例えば、

文房具と日用品を同時に購入した場合。

スワイプで全体を事業用にするか家事用にするかの選択はできますが、
レシート内の一部だけを自動で切り分けるわけではありません。

つまり、

左右にスワイプして選ぶことはできるけれど、
その中身までは自動で精査してくれるわけではない、ということです。

最終的には利用者側での確認と修正が必要になります。

便利な機能ではありますが、
判断まで自動化されているわけではない、という点は押さえておくべきでしょう。

そして怖いのは、間違えてもエラーが出ないことです。

システム上はきれいに完了する。
しかし税務上は不利。

ということは、十分あり得ます。


作業は軽くなるが、判断は残る

入力は確実に楽になります。

ただし、

・譲渡所得などに対応していないケースがある
・本来使えた特例に気づけるか
・青色申告特別控除の要件を満たしているか
・将来の消費税選択をどう考えるか

こうした判断は、やはり利用者の理解に依存します。

AIは補助はしてくれますが、責任までは負いません。


実は見落としがちな「コスト」

このアプリも基本的には有料です。年会費や利用料がかかります。

一方で、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」は無料です。

できることも多く、エラーチェックも充実しています。

私自身も、最終確認の際にエラーチェックを活用することがあります。

また、税務署の無料相談という選択肢もあります。
税務署によってはLINE等で予約できるところもあります。

そう考えると、

有料アプリが常に最適解とは限らない。

場合によっては、
確定申告作成コーナー+税務署相談の方が合理的なケースもあります。


向いている人

毎年確定申告の書籍を購入している方。

制度改正を自分で確認している方。

説明をきちんと読み、なぜその処理になるのか理解しながら進められる方。

こういう方には相性が良いツールです。


要検討な人

感覚的に操作してしまう方。

説明をあまり読まない方。

AIは直感的に操作できる設計です。

それが便利さの理由ですが、同時に判断を省略してしまう危険もあります。


結論

スマホ確定申告アプリは確実に進化しています。

便利なのは事実です。

ただし、

便利 = 万能
有料 = 最適解

とは限りません。

自分で理解して使えるなら、やればいい。

不安があるなら、公的支援や専門家に確認すればいい。

ツールは選択肢の一つにすぎません。

結局のところ、

使う人の理解に尽きるのだと思います。


免責事項

本稿は、実際に一つの確定申告アプリを試用したうえでの一税理士としての主観的な所感です。操作環境や利用状況により実態と異なる場合があります。

本稿の内容は執筆時点の情報に基づくものであり、税制改正やアプリ仕様の変更等により状況が異なる可能性があります。

本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別具体的な税務判断を行うものではありません。正確な機能・操作方法・制度適用の可否等については、必ず各ベンダーまたは所轄税務署へご確認ください。

特定のベンダーを批判・推奨する意図はありません。

なお、当事務所ではスポットでの事業所得に係る確定申告業務は原則として要相談対応とさせていただいております。内容によりお受けできない場合もございますので、あらかじめご了承ください。