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2025.05.8
コラム

クラウド会計だから安心?よくある誤解と帳簿不備のリスクについて【クラウド会計編5】

はじめに

クラウド会計ソフトの普及により、個人事業主や中小企業にとって、経理の負担が大幅に軽減される時代となりました。
特にfreeeやマネーフォワードなどのクラウド型会計ソフトは、スマホでレシートを撮影するだけで仕訳が作成されたり、銀行・クレジットカードと連携して明細を自動で取り込めたりと、大変便利なツールです。

私自身も、これまでクラウド会計の利便性をお伝えし、積極的にその活用を推奨してまいりました。
適切に使いこなせば、業務の効率化や資金管理の高度化に大きく貢献するものと考えています。

一方で、「クラウド会計だから安心」と過信してしまうことで発生するトラブルや誤解も多く、当事務所にはそのようなご相談が数多く寄せられています。

クラウド会計は、正しく使ってこそ効果を発揮します

「スマホでレシートを撮れば仕訳が完成する」
「明細を連携しておけば帳簿は完成する」
このように思われる方も少なくありませんが、実際には確認や調整を要する場面が多くあります。

たとえば、「預金残高と帳簿残高が一致しない」といったご相談は非常に多く、主な原因としては次のようなものがあります。

  • 現金取引がまったく入力されていない
  • 事業用口座からプライベートの支払いを行っているが、仕訳が作成されていない(対象外処理となっている)

なお、帳簿と通帳(口座残高)、現金残高は、原則として必ず一致していなければなりません。
帳簿の残高と実際の資金残高がずれている状態は、どこかに入力漏れや誤処理があることを意味します。

仕訳内容の誤りにも要注意

一方で、プライベート支出を誤って経費として処理してしまっているという事例も多く見受けられます。
このケースは残高不一致とは直接関係しませんが、帳簿全体の正確性を損なうという点で非常に重大です。

このような処理が積み重なると、帳簿上の利益が実際よりも少なくなり、結果として税額が不適切になる可能性があります。
もちろん、うっかりや判断の難しさによるケースも多く、直ちに問題になるとは限りませんが、場合によっては脱税と見なされ、後から追徴課税や罰則の対象となることもあります。

意図せず税務上のトラブルに発展しないよう、プライベートと事業の支出はしっかり区別しておくことが大切です。

また、帳簿の整合性を損なう要因として特に多いのが、自動判定された仕訳内容に誤りがあるにもかかわらず、確認されないまま登録されているケースです。
たとえば、勘定科目の選択ミスや消費税区分の誤り、本来は総額で記帳すべき取引を純額で処理してしまうなどの例があります。

プライベート支出の誤登録も、「内容の確認を怠ったまま仕訳されている」という点で共通しており、帳簿の信頼性を大きく損なう要因となります。

実際には、一部の会計ソフト会社がユーザー向けに「グチャグチャな○○(ソフト名)」という表現で注意喚起を行うこともあるほどです。

クラウド会計ソフトはあくまでツールであり、税理士の助言を受けながら、入力ルールや整理のポイントを正しく理解して使えば、資金管理や経営判断に大いに役立ちます。
重要なのは、ソフトの便利さに頼りきるのではなく、帳簿の整合性と信頼性を確保することです。

帳簿と証憑書類はセットで「証明」になります

帳簿に記載された取引については、「なぜ・誰に・いくら支払ったのか」を裏付ける書類(レシートや請求書など)を保管することが、法的に義務付けられています。
この点については、別コラム でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

紙のレシートや領収書を破棄できるのは、電子帳簿保存法に基づく厳格な要件をすべて満たしている場合に限られます。
この制度には、入力時期の制限やスキャナの解像度など、実務上かなり高いハードルが設けられており、一般の事業者が完全に対応するのは簡単ではありません。

特に、半年分まとめて入力するような運用をされている場合には、証憑書類の保管が必須です。
レシート等を廃棄してしまうと、後になって帳簿の信頼性が疑われることにもなりかねません。

「申告だけ税理士に頼む」は、帳簿の状態だけが問題ではありません

「日々の入力は自分で行い、年に一度の申告だけを税理士に依頼する」という方法を考えている方も多いと思います。

しかし、以下のような事情により申告をお引き受けできない、または追加費用が発生するケースもあります。

  • 修正や確認作業の負担が大きく、申告料が高額になる
  • 帳簿の不備が大きく、申告そのものが受けられない

また、対応の可否は帳簿だけの問題ではありません。
年末調整や給与計算が適切に行われていない場合、法定調書・償却資産・消費税の届出など、関連する手続きに不備がある場合も、申告が困難になります。

「とりあえず入力されている」帳簿と、「税務に耐えうる水準で整備された」帳簿とでは、大きな差があります。
申告に必要な情報は帳簿だけではなく、周辺の処理状況も含めて総合的に整っていることが求められます。

まとめ:「途中からの相談」でも間に合います

クラウド会計は非常に便利なツールですが、「自動で処理される」=「正しく処理されている」とは限りません。
経費と私的支出の区別や、証憑書類の保管ルールなどは、日々の運用を通じて確実に管理していく必要があります。

当事務所では、マネーフォワード公認メンバー・freee認定アドバイザーとして、クラウド会計の導入支援から運用まで幅広く対応しています。
なお、入力内容や運用状況によっては、より確実な帳簿管理のために記帳代行への切り替えをご提案する場合もございます。
確実性と実務性のバランスを重視し、お客様一人ひとりに合った方法をご提案しています。

もし不安や負担を感じるようであれば、定期的なチェックや記帳代行をご活用いただくことで、将来のリスクや余計な修正コストを未然に防ぐことができます。

ご相談はお気軽にどうぞ

「自分で入力しているけれど不安がある」
「帳簿が整っているか専門家に見てほしい」
といったご相談も歓迎しております。
状況に応じて、柔軟に対応させていただきますので、どうぞお気軽にご連絡ください。

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